17.風流空手 形詳解

2015/05/28 公開


 形は、組手に至る過程の稽古法として、動き自体が極めを持った自然の所作に迄、至らなければ為らない。

 流れとしては、基本の動作に次いで挙動の順序、此等に習熟して目的を持った自然の所作としての形が、身に付けられる事と為る。

 多くは、挙動順迄が形の意味と考へ違いをしている気配が強いので、気を付けたい。此の時点で、極めとは身体を硬直させ、大音声挙げ気合を入れたとし、仮想相手を睨倒さん許りの形相をするのは、野性剥出し様の行為で、人としては異常とも受取られ、又其の異常性が空手の本質と思い違いしているので在れば、中味の虚しさを誤魔化し自己満足しているとしか言い様が無い。

 形の稽古としては、数多くの繰返しに拠る錬磨の下、自然の所作と為る迄が大切。

 過程から考へると、動作・挙動・所作と修めるのが自然の流れと考へる。

 動作は、一心に一手一手の型と用法を覚へ。挙動は、動作を遣ふ流れを刷込み。究極は、強い意識も持たず、自然で自由な思考を続け乍でも自在に必要な所作を遣ふ事と為る。

 形の稽古は、一心不乱でも無念無想でも無い。何を考へて居ようと構はず、日常の所作として振舞ふ事で在る。

 身体の動きには、動作・挙動・所作の他に、仕草や科・癖等々数多くの意識・無意識下での行為が在るが、何れも個々人の心を表す事で在り、其等に就いては改めて別記予定。

☆☆ 共通要点

 形の、各論に入る前に多々共通する処があるので、程度の問題は在るが其の要点の概略を列挙する。風流空手の、各所で述べてある事の繰返しと詳解なので、多くは再確認と考へる。

☆01 先

 形は常に先を取る技法の形態

 如何なる動きにも、対応出来る状態に在り、居着かず浮足立つ事無く、自然に備へる。其が、様々な所作に先で繋がる備へゝと続く。

☆02 三位一体束先備

 転位転体転技の三位は一体とし束で先を取り極と備は夫婦で在る

 転位は束、転体は軸、転技は極を要と意識。

 併進は束で、安定した自然で自在な水平移動。威風堂々、力の篭った闊歩は不要。床を踏抜かん許りに鳴らす等は論外、格技に無知と言はれ兼ない。

 回転は軸を振らさず、自然に躰を纏め沈込む独楽の感覚。躰を重力に委ね、自由落下を回転運動に変換し、四肢を意とする接線方向に放り出す意識。如何に、対象と接触出来るかゞ要求される。全力で、全身硬直させ反動で高速を得て、剛体を破壊する論と技は、害多く利は少ない。

 極・備は、身を寄せ接して遣う。本質的には衝突では無く、接触と考へる。対象と離れた位置から、勢いや反動を付けた力頼みの打撃では無く、接触した瞬間からの有効な仕事が求められる。

 施技は極と備で、空手のみ為らず格技と言ふより、日常の所作総ての基盤。

 何れにせよ、束で先を取る事が肝要。同時に、次の所作に備へる残心と為る。

☆03 所作の安定

 所作は重心線と身体軸を一致させる事が滑かで多様性を持った動きに繋がる

 此の、自由度の基盤は歩行に在る。見掛け上の力強さには、百害在っても一利程。観念化されている一撃必殺の空手とは異質で、受入れ難い感覚かも知れない。但し、競技で在れば、鑑賞が目的なので可と考へられる。見世物的な先入観が拭へなければ、日本の格技としては方向性が異なると言はざるを得ない。

 多くの動きの中で、典型的な過ちは、力を制御仕切れず自身の働きを制限して仕舞う、自家撞着共言ふべき状態。

 形態としては、手首内屈・前足脛骨前傾・対象凝視が三点揃いの代表的悪弊。此れに、全身凝固と大音声に床踏音の虚仮脅しが有害無益。

☆04 自在な技法

 所作は次に移る過程を遣う無意識に近い技法を持つ事が必須

 起りは、極めた刹那次の動きに応ずる内容を含む。技を施した時点で、心身が其場で凝固する事は不可。

★★ 施す様々な技法は、対象の固有振動数を感知、瞬時に其れに応じる感覚を養ふ。

 極めは、同位相で共振させる場合と、反位相で制動する場合とを、必要に応じ瞬時に対応する。此は、対象の虚実に応じる処と為る。

 心身を凝固させると、反応出来ずに無意味な行為と為る。逆に、其れを感知されると技を極められ易く為る。又、筋収縮に由り極端に不要な疲労を齏す。

☆05 二足の歩行

 人類は二足歩行が動きの基本

 其処で、全ての動作は片足で自在に立てる処から始まる。自由な動きに、双脚で不動の立位はそぐは無い。

 基本的に、一脚は確実な立位の軸、他脚は多様な技法の具と為る。

 自在な動きを理想としても、演武線の向きに厚みを持てる立位も望ましい。此は、矛盾で在るとも考へられる。又、場に応じ四肢を軸以外に用いる事も在る。仰臥の状態等、躰の自在な動きに制限は大きいが、四肢総てを攻防に用いられ、敗者の態勢とは限らない。

☆06 所作は円滑

 滑らかな動きに重力以外下向きの力は働か無い

 水平方向の動きは、重力との抗力と摩擦を用いる仕事と為る。併進・回転等は、重力に拠る落下を起りに、水平併進又は回転運動に変換するか、接地面との摩擦を用いるか、何れにせよ死に躰と無駄な力は抜き、総ての動作は有効な加速度に変換、仕事に用いる。本来は無音で、発声すら不要とする。散見される、床面を仇敵の如く踏鳴らす等は論外、此は仕事の浪費と其の寸前から躰が死ぬ事と為り、悪しき要素で自ら技を尽きさせ、己を死に躰とする愚は避けたい。

☆07 技法の品格

 受技を往流捌と分類し技の品位を此の順と考へる

 何れも、此の先に多様な極めの技が発揮される事に為るが、自由度は此の順に減少、疲労度は此の順に増加する。事物の流れは、仕事の消費量が少ない程、自然な所作と為る。

 往しが第一、次いで若干の遅れは流し、より遅れた場合の対応として捌きと考へる。

 往しの本質は、対象と相対速度零で接触が始まり、対象の速度を若干加速させる技法と為る。流しは、接触時に相対速度を零に仕切れずに、対応する方向性で、先を取る。捌きは、対象とは若干方向性の異る接触に依り、仕事の交換が生じる事と為る。

 乗る感覚は、若干の遅れを感じた場合、対象を殺し先を取る次善策と考へる。

 数多は、此の順を逆に受止める意識も在るが、間を見切れず後手を引いた場合の対応では、より強い接触と為り弾く等見掛け上の、際どい技法は品位が低いと判断したい。

★★ 技は、起りか尽きを捕る。

 起りは、相手の意図を無為にし。尽きは、死態を曝す。何れも虚の状態だが、心得の在る相手で在れば、尽きる前に次の技を繰出す事と為るので、先を取る本来的な所作で後を先に返す技を施す様にする。何れにせよ、往しは此の間に施される。

☆08 視認の要点

 視線は演武線を茫視する

 目付けは、水平方向を茫視し、凝視は避ける事が基本。相手を、威嚇するかの如くに凝視する様を散見するが、自身より強い相手に対し全く無意味と言ふより、有害無益な対応としか考へられ無い。床面踏音、対象凝視、肩肘怒張等、三点揃いで弱者に対する一連の威嚇的挙動には、格技に於いては百害有って一利しか無い、獣性と心得たい。

☆ 視覚と触覚

 徒手空拳の格技に於て視認に由る詳細な確認は不要に近い

 接触に由る感覚が肝要、視覚細胞と脳・神経反応の特性を考へ、眼の周辺視野は明確性に欠けるが動きの察知に鋭敏で始原的。意識を囚われ難く、素速い反応に適する。中心視野に由る明確性は、必要では在っても其に拘り、動きが制限され易い。視点に囚はれると、局所的に正確な観測は出来ても、全体的な認識と動的な反応で遅れを取易く、視点の凝視は意識の固定に繋がり筋腱の凝固に直結、自在な所作にそぐは無い。

 離隔からの格技でも、施技は接触に拠り其の感覚は重要。

☆09 所作の意味

 自身の身体各部は見ずに用いる

 躰躯の全て、位置や如何に遣うかは見ずに動く処が所作。自然で、滑らかな動きで心身に矯めが在る。動作の視認や、鏡像での確認は望ましくなく、肢体の流れは競技と異なり見せる意味も見る意味も無い。型に嵌った着付教育や作法指導とも異なり、格技の自覚が肝要。

☆☆ 形に於ける共通な挙動例

☆ 起立/全身力む事無く背筋を伸ばした良い姿勢

 踵を閉じ、爪先は適宜に開く。手指を揃へ、自然に下げる。躰幹は勿論、膝関節や肘関節等、上下肢の硬直は避け気を付けの意味や姿勢とは全く意味は異なり。心身総て即自在に動ける様、自然に立つ。

☆ 用意/形其々最初の姿勢

 何れも、力む事無く自然に備へ立つ。(一般的に下肢開閉は左右とし変化を感じさせない様に備へる)

☆ 挙動/動きの基本は常に先で出る意識

 後を引くと、技法の様相が一変する。

☆ 止め/用意の姿勢

 戻る場合も、束の意識で納める。此処は、終了では無く残心を持ち用意の意識で間を見切る備。(動きの足捌きは常に束)

☆ 直れ/起立の姿勢

 一般的に、開いた足を戻す場合は左右とし、残心として常に備へる。

☆☆ 単一挙動

 具体的な用法と注意で何れも三位一体束先備を躰で遣う

☆ 打/拳鎚打下

 最も基礎的な、攻防の形態で極め感覚の原点。単純では在るが、至極重要。

 此処が、破壊と言ふ仕事交換の基本点とも為る。此の感覚は、歩行と同様日常の所作に在る。空手を、特殊な技法と隠蔽又は解析不足の為、誤った観念論を仄聞する。勿論、所作に習熟するには錬磨を要する。

☆ 受/上段受払

 受流し、転位転体と相俟って、転技と為る。

 多彩な技法に転ずる要素を含み、逆を捕り極・投に迄繋がり、相対的には躰を落す。

☆ 払/下段払受

 躰の、回転に応じる鞭の感覚で、前腕尺側にて絡む意識。

 五指側より、手掌辺を遣い多様な技法に繋がる。

☆ 手刀/上段払受

 前腕小指部で、払受けの形態を摂るが、前腕尺側辺迄を用い半ば程度迄回内、突き等を誘導。其の後、躰の用法に由り多彩に転じる。

★★ 弾く払う等は、対象が離れる為、技法の自由度が減る。

☆ 突/中段突
 掌底部を用いる方が、本能的で自然。一般的な動物の、自然な動作とは異なる。

 技法としては、特異で当該部の不自然な鍛練を要する。当てに用いる部分や、回転させながら突出す技法は、本能的な動きを排し強固で破壊力が大。不自然で難しいが、極めて有効。

☆ 蹴/中段蹴

 下肢は、上肢より遥かに強力で破壊力が強く有効。一般的に技法としては用法に乏しい。

師からは、高く蹴る意味は無いとされた。自身を傷め難い基本として、常時自然に錬磨出来る横足弓拇趾球部を用いる。外足弓部を用いる足刀は、強度も有り有効。基本的には、足で突く形態が自身を損傷し難い。

☆☆ 基本形に習熟

 ピンアン・ナイハンチに在る、多くの所作に多様な技法が含まれる。当然、自在な技法を多々包含、此処に基本組手から自由組手に至る技法の原点が在る。

★★ 形の稽古

 形の習熟は、動作・挙動・所作の順と書いたが、此の折に挙動を最終と意識して錬磨すると、所作としての習熟が難しく為る。緊張又は自在な動きの中で、力を入れる動作は自然で安易だが、力を意識的又は無意識に抜く事は非常に困難で、此処に日常所作としての稽古をする意味が在る。

 力を入れた挙動に習熟すると、安易な習性として自然で力んだ挙動の反応が出る。

 此の矯正は困難なので、順としては所作・挙動・動作の方が合理的とも言へるかも知れない。師から、常に受けた教へは“楽にして”で在った。

★★ 起りを反動から為す癖は、非常に矯正し難い。特に、突きに関して顕著に現れ、起りで無意識裡に力を入れる処から、大きな遅れの因と為る。

☆☆ 形の功

 形は空手の万能細胞

 形で稽古をしていると、其の遣い方に拠り多岐な内容に習熟出来る。

 多様な方向性、其は空手を含め一般的な格技と限らず、心身の錬磨結果と付随して、思考・免疫の効用も伴う。又、総括的に拡張した効用に就いて、包含した生存力迄考へ得る。

基礎躰錬続々終章に続記予定。


 

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