16.風流空手 基礎躰錬 続

2015/05/28 公開


☆☆[V] 破壊作業

 此処では、適度な量値での定性的な考察をする。

 現代社会では、定量的な計測結果のみが確実な論拠と看做され、測定不能な事象を切捨てた結果のみを厳正とするが、此には間々大きな過誤を生じる虞が在る。

 格技に関しては、測定し難い生物の感覚や反応、物性等も作用時間に大きく関はる為、対象を近似的に流体か固体の何れを採るか等で、予測が大きく変化する。

 先ず、物性に関する条件として、接触等に於いては総てと言って良い程、作用中は勿論接触前後の速度条件は重要。微視・巨視を問わず、物性自体が作用中に変化する事も考へられ、観念的な固定化を避け、多様な要素を考慮する事は必須で在る。

 其処で、物体の変形・破壊等に関しても、定量的な測定値丈では無く、考へ得る定性的な要因を含めた考察をしなければ為らない。

 非常識序でに、若干の飛躍を差挟むと、創造の原点は破壊で在ると言ふ理解も欲しい処。

 扨、地球上で我々の運動は、重力・抗力・摩擦力に依存している。其上で、頭脳・神経に拠る思考・反応の下に、筋腱の収縮を動力源とした躰躯の用法と為る。此等を、有効に用いる積極的な生存法は、身辺の物体をより効果的に、破壊する手段の発明に拠る。

 此処で、躰躯を直接用いての行為もさる事乍、自身をも損傷する虞れを免れる為と効率化の為、此の延長線上に他の物体を介在させる間接的な作業法が文明の原点で、道具の発明と用法に為り、此が人類異常進化の基点とも言へる。只、文明の度を越へた乱用は、母体の文化をも破壊する元凶とも為る。

 此処に、文明と言ふ具を遣ふか其れに使はれるか、本末顛倒の危機を認識する事は、種存亡の分岐点とも考へられる。

 此処で、躰躯の有効な用法と学習を考へる。

 例へば、手の動きが多様化に慣れゝば、複雑な行為も無意識裡に高度な働きに用いる事が可能と為る。頭脳・神経は、躰躯の大方を支配するので、原点は此の働きから来る思考と学習が必須で在る。

 唯、脳の働きは全く未知領域なので、総て類推する以外に無いが、勝手な推測をする。

 意識下又は、潜在する無意識に近い行為に於いても、何等かの刺激を受けた脳は、行為の指示と発現を異なる領域で処理し、両者の信号を統合同期させ表現すると考へ、此処での時差が多く同期しないと、行為と目的が一致せず、意図しない結果を表す事も在る。

 其処で、所作にはそぐはは無いが、指差呼称確認が用いられる。

 処で、道具の用法には二種の選択を迫られる事が多い。自身の持つ熱源のみを駆使するか、外部の熱源に依存するかで頭脳の制御が支配されて往く処と為る。此処で、文明を遣う筈の人間が、其に使はれる状態に変質し、頭脳の制御が他に支配されて往き、生活の質向上が生存の質低下へと為る。此の境界は単純では在るが、個々人に依り自覚し難い処も在り、個体としては此処を境に、生存性は変動する。

 人類は、自然界に拠り文化を生み其処に文明を作るが、此は稍もすると制御不能に陥る人間も在り、母体の文化を蚕蝕滅亡に導く虞も在る。道具で在る文明は、現代社会維持の為自然界との時性と遊離、同期出来ずに暴走し本末顛倒の制御不能状態で生存すると言ふ、文化の荒廃と共に種の滅亡に向かう事と繋がる。

 扨、空手に於ける身体活動の難易を比すると、第一の基本は重力を用いた打落し、次いで人為性の強い突出しへと進化、そしてより難解な打延しが、四肢を遣う段階的進化の方向性と考へられる。唯、如何に高度な動きを求めるとしても、重力場での生存では重力に拠る以外は無い。

 其処に、筋腱の収縮が動力源と為り、多様な運動と其の制御が為される。

 日常的に指摘される、基本動作を大切にすると言ふ事は、総て此の基での存在と考へる。

 先ずは、筋腱の自然な働きに、高度な意図をもつ動き、そしてより高度な働きは此の先に道具を遣う事により、格段の進化をする。唯、道具を発明した時点から、遣うか使はれるかの選択が発生し本末顛倒の境界と為る。

 空手の原点を、徒手空拳の格技とすると、躰幹と上下肢の用法が具体的と為る。

 動物の、本能的な行動での破壊作業は、端的な力任せの衝突は必然の事。だが、人間の思考と学習で意志に由る不自然な動作の、有効な習熟も在る。此が、本能に勝る訳は無いが、如何なる深度に迄此所作が刷込まれるかゞ課題と為る。

 打込む作業は本能的で在り乍、重力に任せつゝ微妙で難解な瞬時の速度変化、即ち力の加減による極めの感覚を、数多くの体感経験から得る事が必須と為る。所謂、習熟の結果と言ふ処と為り、此処を原点とし表現し切れない程の身体の遣い方と、其の延長線上に在り道具の用法に繋がる。

 此処に、打込みの感覚と効果的な破壊作業の原点が在り、道具駆使は此の先に在る。

 基本は、先ず打落。次いで打突、打延の順と人為化される。此処で、打落・打突・打延の、三様の語に関しては別途定義、又は解説をする必要性も在るかとは思う。

☆01 打落

 作業の原点として、重力と筋力の極自然な性質を用いる。

 此は、空間と生体の自然な働きに身を委ねる訳で、感情が入ると自然に委ねる行為が滞る反応も生じる。意志と、其の深部での感情に応じ、反射的に筋収縮が起こり躰躯を凝固させる等の防御反応も働く。此を、瞬時に力を抜く反応に如何なる深度迄自然の所作として刷込むかゞ、稽古の意味とも考へられる。

 師から受けた、教へは“楽にして”に尽きるのかも知れない。今更乍、師が如何に無理難題を課されていたのか、探れば悟りの境地迄求めて居られた事に為るとのかと思う。

 只、本能に打克つ事は如何にしても至難で、何処迄其に近付けるかと言ふ事と為る。

☆ 打落

 拳鎚の、重力に委ねた自由落下を起りとし、対象と接触寸前の瞬間から、対象に応じた強い速度変化を与へ、衝撃的に仕事をする事が極めとして、最も日常的な手を遣う破壊作業の原点と為る。

 此の内容を追うと、先ず重力に因る自由落下での始動。次いで、対象に接触する迄の等速運動、又は相対速度を無くする動き等での接近。其後の、目標に対する必要な時機での、急激な加速度運動を目指す。対象の、物性に応じた相対速度の微妙な変化に由る、有効な仕事の授受を必要とする用法と為る。

 理想的には、上肢が対象に纏り着き、意思を持つ鞭の如く絡まる脱力状態で、必要に応じ瞬時に速度変化出来る様、作用時間と加速度即ち力の加減が求められる。

 対象の、状態に由る接触時間。固有振動と共振又は制動。有効な仕事の交換等々。表現し切れ無い程の要因が介在している。

 此等を、反射的に判断し反応する事も所謂稽古の目的で、身体の不自然な用法を本能的で自然な所作と同様に出来る様に、繰返し錬磨する事と為る。

 本能的な、意識や反応に対する行動を、意途的に習慣化し極限状態でも行動する事は難事でも、其を目指しての稽古が限り無く、悟りに近付く事と為るのかも知れない。

 此の、四肢を自在に遣う処が原点で、延長上に道具の使用が存在し、人類進化の原点に為ると考へる。

 此処に、打込む作業の原点即ち極めが存在しているので、再三の事では在るが此の原点を見失った人間には、道具を遣う事は困難と為り、使はれる立場に入換わる事は暫々見受けられる。

 道具に依存し、使はれる立場に為る処で進化は終焉する。

 格技と言ふ具は、競技と言ふ擬似格技と変貌。秘する所作が顕す行為と変質、本質を消失する事と為る。此に、使はれる事と為り、格技は原点を摺換へられ本末顛倒した後、規制に支配された異質な存在の具として、鑑賞の対象と為る。

 道具や用具等とは、何も器物とは限らない事も、追記して措く。

 若干付記すると、職業棋士と電脳機器が思考力と機能性を競い、遊戯力と処理力を比較する事は異次元世界の比較で在り、研究資料では在っても本質的な意味は無い事の認識は必須で在る。生命体の思考能力と、器具の処理能力の比較対象に、本質的な意味は無い。

 世を挙げて、是を識別出来ず同一視して事を混乱させる事も在る。

 機能の進化は、思考の参考には為るが、生命体の感覚とは異次元の問題で、此の同次元化は本質の糊塗抹消で、用具に使はれる立場を採る事と為る。

 現代社会の、運営自体が彼様な異質を同質として扱う手法を、欺瞞誤魔化しとは言はず、堂々の正論として押通す。三権分立等と称し乍、数値のみの比較で電脳が支配し運営する社会では、人間性は消失の沙汰と為る。

 何れ、生活質の向上で生存質を下落させ、生命の意味をも変質させる事に為るのかも知れない。

 此は、現代社会の主流を成す思想の欠陥から来る、結末とする。

 扠、話を戻して。空手では、打と表現する。

☆02 打突

 極自然な、重力と筋力の作用に次いで、単なる生息と異なる身体の用法として、強い思考と意志下に用いられる技法が、打突。

 四肢と、其の延長上に在る道具の、特殊な用法の発明で、特に空手の突きは最も基本的で高度な用法と為る。

 本能的な動作が、全く無い訳ではないが、打込とは反対の動作としての刺突は、本能的には困難な作業の典型かも知れない。

 空手と限らず、格技の基本と為る特異な破壊作業の発明と考へる。

 本能的で自然な動きを捨て、敢えて不自然な動きに習熟し、思考より引出された特異な能力の開発。

 上肢では、不自然な動きの典型で、格技には非常に有効な動作と考へる。

 突きに関して、錬磨と用法の難解点と有効点を、其々分けて列記する。

 難解部分は、錬磨と用法。拳頭を鍛へ前腕を半回転させ乍突出す等、不自然な動作。

 下肢では、膝を潰さず内股に確りと立ち、上足底で突く等、日常では考へられ無い立位や動作。

 何れも、本能的では無く自然な身体機能を無視したかの技法は、格別な錬磨を要するが、有効な用法と考へられる。

 自然や本能に逆らう動作なので、必死の状況で遣ふ事は難儀と思うが、如何なる状況でも遣へる事を理想とし稽古する。空手では、単に突きとする。

☆03 打延 

 次いで、前二者の動きを合体させた打延。

 打落と刺突は、基本的に引きと押しの動き。

 此を、同時に行う作業と考へると、相当高度な動きと考へられる。

 相反する様な働きを、同時に行う作業には、相当な習熟が必要と為る。

 典型的とも言へるのが、日本刀で切る動作が此処に在るのでは無いかと考へている。

 又、刀を打つ鍛造作業にも考へられる。

 勿論、此も初源的には打込みに在るとは思う。師の教えでは、乗ると解釈出来る。

☆☆ 補足

☆ 破壊作業の基本は、対象に対する仕事を極度に偏った歪として蓄積、局部に浸透させ破壊の切掛けを有効にする事が重要と為る。其後、必要な仕事を如何に注込むかで、破壊に至る。

 此処で、対象に仕事をする手段として、位相を合わせ共振で歪を蓄積させるか、反転させて一気に破壊するか、相反する技法が瞬時に選択される。

 振動を、増幅させるか静止させるか、全く反対の作用を用いる事も技法の一端と考へ、瞬時に虚実を感知する事が主題と為る。

 表現は難事だが、対象との接触時に於ける相対速度と時間に由る物性を、自身の感覚で把握、有効に仕事をする問題。又は、虚実を操作する時差も技法と考へる。

☆ 変数の多い、難解な問題の上、対象が動物となれば意識・反応・練度等の要素も在り、場に応じた判断しか無く機械的な表現は困難とするしか無い。

☆ 相対速度

 対象に由る、対応の基本は力の強度もさること乍、時間経過に応じた加へる仕事量との加減が大きな要素を占める。又、接触前後の相対速度と加速度に関しては、対象の意識に迄感知する要素も在る。

☆ 慣性

 仕事と破壊のみ為らず、事物に関する最重要事項は、余りにも当然の存在で見失い勝ちな空間と物質の存在に関わる慣性。電磁場よりも見落され無視され易いと言ふより、生命と同様其自体の本質が不明なので難解。
 破壊に関しては、弾性等と共に別途考察する。

以下 続々


 

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