15.風流空手 基礎躰錬

2015/05/28 公開


 単に、棲息する丈では無くより強く生存する指向性を求め、日常的に心身の錬磨を意途する。

 進化や耐性は、対象への適度な負荷に拠り、其の疲労回復時に生ずるので、適切な負荷と疲労回復の習慣化を図りたい。

 風流空手は、日常所作の総てからと再三述べているが、其の基本的な事例を考へる。

 只、日常の所作とは言へ、年代的には昭和初期から中期頃の精神論が謳歌され、文明貧しき時代の生活が対象と考へられるので、現代社会に於ては全く通用し難い感覚かも知れない。

 昨今では、胎児期を含め乳幼児期以降、耐性を齏す日常的な気力・知力・体力等々、心身の錬磨は不充分な上、社会思想の主流が其れをより助長する方向性を強いているので、相当な違和感や抵抗感を伴う事と思う。

 数多の希求する、無負荷に近い胎児期状態と同様の棲息は、可能性を持つ総てに退化を齏す事も必然と為る。

 心身の錬磨は、意とする処に負荷を掛け、其れに耐へ得る様進化させる事なので、限界に近い負荷で疲労させ、其後の回復を待つ事が有効だが、負荷強度と回復時間の過誤は重大な損傷を招く虞が在り、慎重な配慮は必須となる。

 そして、此等の適切な判断は難解だが、此れを日常的に耐へ得る所作として、生活に取込めば、急速な鍛練には不向きとしても、生涯に亘り心身共に錬磨出来るので、総てに於て安全で有効と考へられる。

 筋力・反応・免疫等の強化に、短期的な鍛練は結果が顕著でも、減衰し易く。長期的な錬磨は成果が伏在して、永続すると考へられる。

 其処で、歩行/走行・立居/振舞・破壊/作業・医食/免疫・思考/意識等々。日常的な、頭脳の活性化を基盤に、強い生存力養成を心掛けたい。

 此処で、生存と生活の質を考へるに反比例様の相関性が在り、両者は日常的に適度な平衡を必須とする。

 唯、生存の質に若干の重きを置く思考・意志・行為は、人間としての特性と考へ得る。

 人類と、他生物との差異を学習と思考の能力差に置くと、本能的な行為に思考に由る制御を併せ持つ生存が、人間としての欠かせぬ要素と為る。

 然し、現代社会の主流を為す思想は、生活の質をより高揚さる方向性を強要し、数多も其れを要請しているので、人間としての思考力は低下し感性のみを高揚させ、潜在能力を麻痺・退化させる事が、不安定な社会を維持する根幹の手法と支持されている事は否めない。

 若しかすると、爆発的に増殖する人類が、本能的に自滅に向かう社会を構成しているのかも知れない。

 諸事・数多は、時間の経過と共に、事物が本末顛倒する事象を無意識又は当然の如く容認し、認識も理解も出来ず原点を見失っている日常は、枚挙に暇が無い。

 其処で、“手”と言ふ視野から、遊び乍事物の本質を求める模索を試みる。

 身体活動の、指示・本源は頭脳・神経に拠る処と思うが、運動の基盤は躰幹に在り、此れが筋肉を動力源として、四肢を自在に支配する学習を稽古の基本と考へる。

 緒として、移動の原点である歩行から始め、多々の目的を持つ生存能力の進化へと繋ぐ。

 人々の日常的な仕事には、無意識な按撫叩打等の行為が在り、又意識的な雑巾掛や薪割等の作業が在る。

 此等の間に、歩行・起座等が在り、此の無意識領域への取込が日常の所作に在る。

 進化に有効な行為は多々在るとしても、現代社会が基盤に据へた願望と思想は、文明を浪費し心身総てに、母胎様の棲息環境を目指す処で在れば、生存力の皆無を希求しているとも言へる。

 此れが自然の摂理なのかも知れないが、其の為自身の棲息する周辺環境迄をも変質させ、他の存亡に関わる行為は横暴とも言へる。

 若しかすると、人類の本能は神仏の如く、思考は勿論実態も無い混沌に向け、死の空間を目指しているのかも知れない。

 此れは扠措き、人類が獲得した直立二足歩行の、基本的な内容から考へる。

☆☆[T] 歩行・走行

 直立二足歩行の人類としては、此の基盤上に生存が成立つとも言へるし、一般的な格技等も、総て此処から発すると考へても過言では無い。

☆01 歩行/通常

 日常、出来る丈の大股歩行が基本。

 運足は伸々素速く、円滑で落着き確りと踏締める動き。足底は、床面と不即不離が望ましい。

 身体の重心は浮動せず、等速併進で重心線と身体軸を一致させ、日常的に鉛直とする。

 躰躯の等速併進と共に、骨盤部の水平回転に連れ、同側の上下肢が同方向に振れ動く運動が出来る感覚も望ましい。

 此処で、性急又は緩慢な動きや、調子を取る動きとは異なる処に、留意する。

 形態としては、躰軸を併進させ乍、腰椎を軸に腸骨稜迄を半径とした直角程の水平回転させ、其れに微妙な遅れの四肢が躰側を振子様に連動する、鞭の状態。此処に、身体で歩く感覚が在る。

 下肢は、上躰を支へる為の円滑な素速い反応で、接地想定点に等速で先行。

 上肢は、上躰に連れ下肢と同様、腰に乗った肩の回転に応じるが、無闇に大きく振切らず、接線方向に目的意識を持った動きで制御放出出来る様にする。此処に、技の起りが在る。

 始動した浮遊足が接地する迄、支軸足は横足弓辺から五指腹で全身を支へる時間を延ばす様、内外の足弓を粘り強く遣い躰を前方に押出す。此処で、歩幅が伸びる。

 支軸足の粘り強さを基盤に、浮遊足は足底を床面と不即不離の感覚で、水平等速移動させ乍接地点を探る。

 浮遊足の接地と共に、支軸足は瞬目の裡に、平常の歩幅とする。此処では、決して股を開き切った状態に為らず、常に猶り有る日常の歩幅が肝要。此が、束の基本。

 先行した浮遊足は、接地した瞬間から支軸足と成り、躰幹の水平等速移動を滞り無く支へる。足底は、踵骨部で体重を支へぬ様、横足弓辺を支点とし内外足弓を支へに、接地面と瞬時に密着する。

 空手に於ける立位で、下肢は浮遊足の多用性に備へ、両外足弓辺が概ね平行程度の、若干内股が望ましい。但し、膝関節を潰さない様、強い内屈前屈にしない。

 浮遊足は、探査・施術・攻防の備へを終へ、接地した瞬間から支軸足に転じ、横足弓部から五指腹を鈎とし、内外足弓の働きで全身を支へ乍、引付けから押出しに働く。

※ 補足

 ☆ 歩行は、現代的な集団又は競技様式とは異なる。

 ☆ 支軸足は、躰幹支持・移動推進。浮遊足は、攻防・探査等多々の施術に備へ、位置の前後とは無関係。

 ☆ 足弓

 足底部の重要な構成要素で、多種の筋・腱・骨が結合した状態で総合的に働き、足底各部を強く引締めている円蓋状の結束構造。

 横足弓(一指〜五指中足骨結束列)・内足弓(一指中足骨辺〜踵骨)・外足弓(五指中足骨辺〜踵骨)の三種が、上向き弓状の強固な構成。踵骨部を含め、日常的にも錬磨出来る。

※ 蛇足

 下肢の働きは、前後の位置とは無関係で、浮遊・支軸と為る。浮遊の前足は、脛骨が鉛直又は微妙な後傾で膝蓋部を出さず、多用出来る様接地する。

 因みに、上肢は常に夫婦手として、肘を絞り要点に向け遣う。

 手関節部の掌屈と、接地時の前足脛骨部の前傾は、何れも構造的に決定的な弱点と為る為、特に忌避する。空手に於て、数多は此等微妙な角度の重要性を、看過と言ふより寧ろ誤った解釈又は観念の下に在る。一撃必殺の願望と共に、体重と筋力に頼り全身の硬直と高速重量で破壊作用が最大と言ふ、三点揃いの観念で流布・指導されている処が多い。

 此処が、柔軟に躰で動き又四肢の技法として、多用出来るか否かの分岐点とも為る。

☆02 障害/回避

 歩行中、前足の接地想定点に、障害が在る場合。

 当然、其の位置を回避する為、進行方向の前方迄もう一伸しの意識で、障害を越へた位置に降す。

 此際も、前後足の間隔を平常通りの歩幅と為る様、軸足は素速く引付けられる。此れも、束の基本。

 越えられない程、大きな障害の場合。

 浮遊足は、此を陰陽境界の陽側に為る様、右又は左の所謂背に躱し降す。

 対象を、背にする事に為るが、主に躰幹で相手の躰躯に接触し動きを封じる。所謂、躰を殺す基本。

 此は、往す・流す等の、基本的感覚と為り、動きの方向性としては前進。因みに、陰側では後退と為る。

☆03 昇降/階段

 日常的に、二段毎の昇降。時には、三段を試みる事も有効。

 混雑時でも、他者が踏代を空ける迄、支軸足の横足弓から五指腹で全身を支へ、内外足弓で踵を浮かせ、浮遊足は等速先行し接地点を探り、時と場を決める。此は、流れを読み他者の動きと同期させる感覚と、浮遊足を多用する学習の好材料と為る。

 昇段時、支軸足の横足弓辺と五指腹の押出が相俟って、浮遊足の横足弓辺が接地した瞬間、此れが支軸足として躰躯を引上げる。

 此等は、通常の平地歩行と同様で、此の瞬間から浮遊足と支軸足が交替する。

 降段時も、重力に総てを委ねず、支軸足で浮遊足を緩やかに等速先行させ、滞り無く降す。支軸足は、常に出来る丈片足で立てる時間を永く保持する。

 下肢、特に膝は通常歩行や昇段時よりも、遥かに強い衝撃的負荷が掛かるので、其の吸収と正確な接地感覚は特に意識し、足弓部から膝にかけての衝撃吸収感覚を錬磨したい。

 以上、一般的な歩行を含め、横内外各足弓部の微妙な働きの意識と、自然な接地感覚の習熟を日常所作としたい。

 手摺等は、小指側を触れ安全を確保し乍、滑らせる意識で間を読む感覚や、自身の安定と対象に技を施す起り、殺しの感覚にも繋がる。

 何れの接地時も、踵に直接衝撃を与へぬ様、横足弓から内外足弓で減速する等、柔らかに踏む意識は肝要。

 踵は勿論、足裏総てに大きな高低差を飛び降りる等、日常的では無い衝撃的過負荷の経験と感覚は、必須では在っても注意を要する。

☆04 走行/各種

 日常の歩行とは異なり、数歩以上の長い変位を高速移動する場合、両足共接地しない状態を持つ。

 鍛練を目的とすれば、意図する処に依り複数の形態が挙げられ、身体各部の鍛練に於いても重要で本質的には同次元だが、完全な重力支配下の為自身で重心移動が不可能な状態と為る。

 自在な制御を不可能にする処で、一般的な日常所作としては、自由度の減少する状況。

※ 蛇足

 日常的に、幼児より裸足・下駄等、不備な条件下での歩行は望ましいが、現代社会では逆に負荷減少を推奨されるので、難事で在る。

☆☆[U] 立居/振舞

 歩行と同様、軸足の横足弓辺と五指腹が総てを支えるが、其の時間は若干長く回転の支点としても、膝と共に多用される。

 束で、躰の陰陽を遣い分け、躰軸の鉛直な併進と落下の働きを回転に変換、軸を安定させる等。特に、支軸足膝への過負荷多用の為、注意を要する。

 日常の所作である立居振舞は、自然で当然の三位一体・束の動き。

☆01 躰幹/用法

 一般的に、躰躯は四肢五感の用法から、陰側面は防護性に劣るが、攻撃力が強い。又、陽側面では防護性は強いが、攻撃力に劣る。

 対象との間を詰め、接触する場合。陰陽境界の陽側を寄せる意識は、攻防の切換へ等、本能的と考へられる。

 陰陽共、躰躯が対象に接触する瞬間は相対速度零で、衝撃を与へず不即不離で抑え絡める感覚。相手の躰を殺す時、躰幹及び四肢は、概ね陰陽境界の陽側寄りを遣う事が、自身の安全に繋がり、即応で施術し易い。四肢では、陰側を遣へるが制御し難く危険性も多い。状況にも由るが、陽側を主とした方が安全性は高く、障害回避の感覚其物。

 陰陽は矛盾と同様、本質は同源。

☆02 立居/起座

 重心線と身体軸を一致させ、重力を軸足に委ね、鉛直に受ける。

 基本的には、支軸足のみを用い一方の足は浮遊足とし、常に活かして置く。当然の事乍、原点は階段昇降、又は其れ以前の通常歩行と同様。

 起座共に、床面近傍の立位と座位の中間時、支軸足の膝部は異常に強い負荷が掛かるので、日常的に意識し練磨したい。

☆03 四肢/用法

 上下肢共、固体(剛体)では無く流体(柔体)に近い、鞭の感覚で遣う。

 対象との接触時、物性は相対速度の要素が多大で、自身の損傷をも招く虞も含め、注意を要する。

以降 続


 

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