4.風流空手 全体的稽古 要領

2008/08/21 公開


目的は自由組手にあるので、先ず相手との間を読む事と、常に入込む意識が重要。

稽古の過程として、T.基本・U.形・V.基本組手の階段を踏む事が多い。

  1. 基本は、素突き・順突き・順突き突込み・跳込み突きが一連のものと考えられる。
    又、突き蹴り共に、順逆問わず腰に歪を残さない。
     
  2. 形は、転位・転体・転技の基礎訓練を土台に、多目的な稽古として重要。
    個々人に偏らない習得は必須で、解釈・用法は自由でも勝手な改変は不可。
     
  3. 基本組手は、T・Uを含め、内容的には非常に多くのことを含むが、
    特に対人での間の意識と、接触時の感覚の習得に重要。
     
  1. 突きの基本

    突き・蹴りの感覚は体の旋回、即ち回って受け払いの感覚から始まると良い。回った時、前になる足を後になる足の線又は点対称に移動させ、腰は動かさずに歪を持たせ矯めた状態にし、これを一気に開放する。丁度発条が弾ける感覚。この時、腕を上段受け・下段払い等に用いるが、これは突出す最初の感覚で、蹴りに関しても同様な感覚が望ましい。この感覚に馴染んだ後に前方に対する突きの感覚が始まる。

    これに習熟しておけば、転位・転体・転技の基本的な感覚も得られ易いと考えられ、大きな動きを持たずに瞬時に同じ状態での技が出せる様になる。鞭でも棒でも身体でも、何を遣うにも最初は正確に大きく遣って、本質的な用法を会得しておけば、慣れると一見手元だけの、小さな動きで済む様になる。

    此処では、デンデン太鼓を考え、拳を突出す意識では無く、太鼓を回すと豆が、手首を捻ると鞭が、腰を回すと前腕が放出される感覚。但し、豆や鞭とは異なり前腕には拳先迄神経が行き届いているので、これによる経路と極めの制御は当然。

    基本の重要性を、師は事ある毎に、楷書・行書・草書の順ですよ! と言われていました。然し、草書の時も意識中では、正確な楷書で書いている事を、忘れてはならないのです。

    素突き・順突き・順突き突込みの順で、自由組手に繋げていく訳ですが、突きに関する誤解も間々有り得る。

    突きは常により速く!を要求されるが、本来和道空手の突きは、単純にその全行程の速さのみの要求では無いと考えられる。突きは相手に接触してから始まり、それ以前は間を見切り踏込む感覚が必要で、速いに越した事は無いが、それ程強く要求する意味は少ない。

    然し、極を持たない動きは幾ら速くとも突きとは判断されないので、次善の策として速さを要求される事になる。突きに於ける極めの要領としては、餅搗き・薪割り・田畑起し。それ処か、日常茶飯事に常在している。これが無いと、基本組手・居捕・短刀捕等の極めが解らないでしょう。

    素突き・ナイハンチ・セイシヤン・チントウ等と、基本的な立足の形は身に付ける事は当然。又、素突き・順突き・順突き突込み・逆突き・逆突き突込みと、何れも突きの後の立方では、特に腰に歪を残さない事に留意。

    何れの留意事項も、日常の所作の様に身に付けることが大切です。
     
  2. 蹴りの基本

    蹴りは、二足歩行の人類にとって余り有利な技法とも考えられないが、考えて見ると我々の日常は歩行から始まって、片足での作業が結構多い様です。然し、蹴りを使う場合片足での安定時間は、日常歩行や作業時とは異った動作や、他からの介入等で若干時間を長く取れる必要がある。

    蹴りの稽古は、当然不安定な高い所迄蹴る(師は蹴りは低い所でよいと言われていた)方が良いでしょう。膝・腿を高く引付・引上げ腰全体を四半回転程させて蹴り、又元に戻す。この間片脚で安定した状態を保ち、連続して3回程も出来る様にしたい。この感覚の習得は、矢張り日常の生活から得る事が適しているでしょう。

    処で、昨今の空手道競技を拝見すると、回蹴りなる技が大変盛んな様です。練習風景を想像するに、砂袋(中身の多くは砂では無く襤褸屑等)を足甲で蹴って大きな音を出し、その快感に酔痴れている様子。それを見ている初心者は、その音で恐怖に慄き、自身もそれを目指す。空手に無知な観衆は、音の効果に陶酔の興。そして、程度の低い判定を司る人達も、その音に感激し手を高々と差し上げる。

    何でも大きい事は良いもんだ!とはいかない。音が大きい程、それに仕事を取られていることは自明だが、これは微々たる量。それ以前に、大きな面で他の面を叩けば音は大きくなり、反比例して対象に対する圧力の強さは減少する。要するに同じ力なら、音が大きい程効力は激減するという自明の理。

    空手の打撃の多くは、対象物に如何に深く食込むかで、概ねその効果が決まる筈。

    況や、寸止空手において、音がしなければ如何とも判断致し兼ねる状況とは、原点は何処?蹴りは基本的には突きに準ずる状態のもの、散見する回蹴りは板切れで殴る感覚の様で、これは空手の蹴りでは無いでしょう。「矛盾」が、平然と尤もらしく行なわれる怪力だけの世界ならいざ知らず、寸止めを大前提に掲げる伝統空手の世界で、この様な蹴りを主流に置く事に対しては、是非共一考願いたいものです。

    何れにせよ、突き蹴りの発生は相手に接触する瞬間から始まり、それ以前は目的部位に正確に到達する事が重要。此処に転位の重要性がある。
     
  3. 間の見切り

    「間」とは、「心・時・空」と三元の要素を含みます。如何なる格技に於いてもこれが土台になっており、これが無視できるのは力のみの世界で、技法の意味は無い。

    特に、心という常に変動している元を含んだ連立方程式を解くのは難解過ぎるので、自由組手による多量の経験より得られる感覚に頼る事になり、多くはこれを定数として基本練習をする。健康管理面から考えると、自由組手に近い練習法としての基本組手での反復練習が有効でしょう。

    三位一体とはいえ最重要な転位を用いての間の見切りは、どちらかと言うと空間距離よりも時間距離の見切りが重要で、この前段にあるのが心の問題でこれは至極難解。多くは心を決めている場合が多いので、変数は時・空の二元に置き換えて対応練習しています。

    心の部分が飽く迄も変数であれば、対応の仕様が無い程難解。初心者が如何にしても基本的には、熟達者に勝てない解答は此処にあります。

 

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